
税理士事務所の屋号を決める際のポイントとは
税理士事務所では、税理士会に登録する際の「事務所名」とは別に「屋号」を決めることができます。
屋号は比較的自由度が高く、また看板や名刺、ホームページなどに記載するため、上手く付けることができれば、他の事務所との差別化にもつながります。
この記事では、屋号を決める際の注意点と、効果的な屋号を付けるためのポイントを紹介します。
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屋号を決める際の注意点
比較的自由度が高いといっても、屋号を付ける際にはいくつか注意点があります。まずは屋号を付ける際の注意点を説明します。
屋号として使用できない表現
税理士法では、税理士や税理士事務所、これらに類似する名称を使用できるのは税理士のみと定められています(税理士法第53条 ※1)。
(※1)税理士法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237/20240101_431AC0000000003#Mp-Ch_7-At_53)
同様のルールは他の専門職や業種にも適用されており、以下のような名称の使用には制限がありますので注意が必要です。
【例】
- 法律事務所:弁護士のみ使用可(弁護士法第74条第3項 ※2)
- 公認会計士や公認会計士と認識させるような名称:公認会計士のみ使用可(公認会計士法第48条、第48条の2 ※3)
- 社会保険労務士やこれに類似する名称:社会保険労務士のみ使用可(社会保険労務士法第26条 ※4)
他にも、株式会社や合同会社などは会社法上の会社以外は使えません(会社法第7条 ※5)。「銀行」や「保険会社」といった名称も、銀行法や保険業法において使用が禁止されているため注意しましょう(銀行法第6条第2項 ※6、保険業法第7条第2項 ※7)。
(※2)弁護士法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205#Mp-Ch_9-At_74)
(※3)公認会計士法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000103#Mp-Ch_7-At_48)
(※4)社会保険労務士法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089#Mp-Ch_5-At_26)
(※5)会社法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086#Mp-Pa_1-Ch_2-At_7)
(※6)銀行法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/356AC0000000059#Mp-Ch_1-At_6)
(※7)保険業法 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000105/20230616_505AC0000000063#Mp-Pa_2-Ch_1-At_7)
既に商標登録されている屋号は使用できない
既に他の事務所が商標として登録している屋号を使用することはできません。商標に登録されている事務所名もあるため、重複する名称が登録されていないか確認するようにしましょう。
既に登録されている商標は、「特許情報プラットフォーム」から検索することができます。
特許情報プラットフォーム
(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)
屋号を付ける際のポイント
次に、屋号を付ける際に、他事務所との差別化のために意識したいポイントを紹介します。
「◯◯税理士事務所」と「◯◯会計事務所」どちらを使用するか
税理士事務所の屋号として特に多いパターンが「◯◯税理士事務所」と「◯◯会計事務所」であることは、体感的に把握されていると思います。実際にどちらの名称が使用されていることが多いのか、調べてみました。
税理士事務所全体での統計資料はありませんが、経済産業省の認定経営革新等支援機関として認定された税理士事務所の一覧をもとに推計しました。
この制度では、新たに認定を受けた機関名を年6回、偶数月に公開しています。
それによると、令和5年中に認定を受けた税理士の数は1,094名ですが、屋号(経営認定支援機関の場合、「店舗名」)を登録しているのは1,077名でした。屋号の付け方をいくつかの種類に分け、それぞれ集計したのが以下の表です。
税理士事務所VS会計事務所 |
使用例 |
件数 |
割合 |
「フルネーム+税理士事務所」 |
鈴木太郎税理士事務所 |
801 |
74.4% |
◯◯税理士事務所 |
すずき税理士事務所 |
111 |
10.3% |
◯◯会計事務所 |
鈴木太郎会計事務所 |
115 |
10.7% |
それ以外 |
◯◯会計税務事務所、◯◯会計 |
50 |
4.6% |
(出典)経済産業省HPの認定経営革新等支援機関から独自に集計して作成
(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/)
「フルネーム+税理士事務所」または「税理士+フルネーム+事務所」(正式名称のままと推察できる名称)を除外した、屋号での使用率で比べてみると、「◯◯税理士事務所」と「◯◯会計事務所」はだいたい同じ割合で使われているようです。
「会計」を含む屋号(会計事務所や税務会計事務所など)を使用することの主な理由は、税務だけでなく企業会計全般の支援を行っていることを経営者にアピールすることにあると考えられます。
一方で、会計事務所という名称は、税理士登録をしていない会計士なども使用できる名称なので、税理士であることを強調するために税理士事務所としたほうが良いと考える税理士もいるかもしれません。
また「◯◯税理士事務所」と「◯◯会計事務所」のどちらも屋号に使わない税理士も一定数いるようです。
事務所の強みを入れると差別化できる
事務所の強みや得意業務を屋号に使用することで、他の税理士との差別化がしやすくなります。
【例】
・◯◯総合事務所、◯◯経営会計事務所
税務会計だけでなく、創業から成長に向けての経営コンサルティング、M&Aや事業承継の支援など幅広い支援ができる事務所であることをアピールしたい場合におすすめです。
・◯◯相続相談事務所
相続税の申告や節税対策に強い税理士であることを効果的に伝える屋号といえます。
・◯◯国際税務会計事務所
海外展開に伴う国際税務や、外国人起業家向けの相談などに強い税理士であることをアピールしたい場合におすすめです。
・◯◯IT会計事務所、◯◯クラウド会計事務所
クラウド会計の導入支援など企業のDXに強い税理士であることをアピールできる屋号になります。
・◯◯公認会計士税理士事務所、◯◯税理士社会保険労務士事務所 など
税理士以外の資格がある場合、税務とのシナジーを活かしたサービスができることを伝える屋号になります。
聞き取りやすさ・呼びやすさを意識する
「フルネーム+税理士事務所」の場合、なかなか覚えてもらえなかったり、スタッフや顧問先に呼びづらさを感じさせたりする場合があります。
そうした場合は、フルネームを姓のみに変更したり、ひらがなやカタカナを使用して読みやすさや覚えやすさをアップさせる方法があります。
【例:鈴木太郎税理士事務所】
- 鈴木たろう税理士事務所
- 鈴木会計 など
検索キーワードを入れる
インターネットでの検索キーワードを意識した屋号にすることも、問い合わせを増やすことに繋がります。例えば、地域名を入れることで、特定地域の顧客からの問い合わせを優先的に集めることができます。
【例】
・事務所の所在地が「A町」である場合
→ A町税理士事務所
・「B町」で「相続」の業務を中心に集客したい場合
→ B町相続相談事務所 など
好きな言葉や経営理念を入れる
屋号は、これから自分で育てていく大切な事業の名前です。
そのため、自分が大切にしている言葉や経営理念に関するワードを使用することにより、自分の想いを人に伝えやすくなり、モチベーションを高めることにも繋がります。
【例】
・お客様の夢を実現したい
→ 夢実現会計
屋号の変更は税理士会での手続きは不要
屋号を変更する場合、税理士会に対する手続きは特にありません。
税理士名簿に登載される正式名称(フルネーム+税理士事務所など)と異なり、屋号は税理士登録の対象外であるためです。
したがって、屋号を新しく設定したり途中で変更したりしても、税理士会への申請手続きは特にありません。
税務署や金融機関、各種契約において屋号を登録している場合は、必要に応じて変更手続きを行う必要があります。
税理士事務所の屋号を決める際のポイントまとめ
税理士事務所の屋号は比較的自由に設定できるため、事務所の強みや経営理念を反映させたり、地域名や検索キーワードを取り入れたりすることで差別化を図ることが可能です。
一方で、使用できない表現があったり、商標登録されている事務所名は使用できなかったりと、注意が必要な点もあります。
正式名称とは異なり、屋号の変更には税理士会への届け出は不要ですが、税務署や金融機関などで登録している場合は手続きが必要になる場合があります。
屋号は「事務所の顔」です。納得のいくものを設定しましょう。
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