
年末調整業務のペーパーレス化に関心はあるものの、「事務所全体で一気に変えるのは難しい」「顧問先や所員の抵抗がありそう」と踏み切れない税理士・会計事務所は少なくありません。特に、長年の実績がある事務所ほど、不安は大きいものです。
大阪府内にある斎藤税理士事務所も、まさにそういった状況でした。当初は年末調整業務を一気に「freee人事労務」へ移行する構想でしたが、所内の温度感や顧問先への影響を踏まえて、方針を転換。「最低でも1人1社は試してみる」という現実的な路線で、事務所全体の約2割の顧問先から「freee人事労務」の導入を始めました。
そんなスモールスタートではありましたが、現在は業務効率化の確かな手応えが生まれています。担当者によっては、自身の顧問先の8〜9割を「freee人事労務」へ移行したケースもあるそうです。今回は、斎藤税理士事務所で「freee人事労務年調プラン」の導入を主導した志磨さんに、約2割から始めた理由、紙運用の課題に対して導入後に見えた成果、そして今後の展望について伺いました。
導入前の課題
会計事務所の繁忙期の起点である年末調整業務について、効率化に着手できていなかったこと
紙ならではの確認・差し戻し業務が負担になっていたこと
一気に切り替えることに、心理的ハードルがあったこと
導入の決め手
今後の業務はペーパーレス化が進むという実感があったこと
スマホで回答でき、顧問先にも案内しやすいと感じたこと
1人1社から、現場主導のスモールスタートが可能だったこと
導入後の効果
担当者の体感として、紙運用時の半分程度まで業務を削減できた
書類不足で作業を進められないケースがほとんどなくなった
業務のシームレス化で、担当者一人で完結できる範囲が広がった
志磨奏映さん(以下、志磨): 税理士事務所にとって、年末調整は繁忙期の始まりという感覚が強い業務です。年末調整が始まり、その後に給与支払報告書、法定調書、償却資産税、確定申告と続いていきます。秋になると「もうこの時期が来たか」と感じる所員も多いと思います。
そんな年末調整を紙で運用していた頃は、最初の書類整理からして大変でした。まず、顧問先から書類が届いたら、従業員名簿と照らし合わせ、全員分の書類が揃っているか確認する必要があります。
顧問先によっては、従業員一人ひとりの申告書を封筒に入れ、丁寧にのり付けして送ってくださることもあります。その場合、従業員の人数分の封筒を開けて、中身を出して、封筒を捨てるところから作業を始めなければなりません。
申告書だけでなく、控除証明書についても確認が必要です。申告書に記載があるのに証明書がない、逆に証明書はあるのに申告書に記載がない、家族の証明書が混ざっているといったケースもよくあります。
このように、必要な確認が多い上に、差し戻しのやり取りも発生するため、紙の管理そのものが大きな負担になっていました。

志磨:大きかったのは、単に紙の申告書をデジタルに置き換えるだけではなく、年末調整後の業務まで一気通貫でつながった点です。「freee人事労務」であれば、年末調整で集めた情報を後工程へ連携できるため、同じ内容を別のソフトへ入力し直したり、申告担当者へ紙を渡したりする必要を減らせます。
実際に使ってみて、年末調整から給与支払報告書、法定調書までをボタン操作だけでシームレスに進められたことには、大きな価値を感じました。
また、従業員が質問に沿って回答できる自己申告のアンケート形式であることや、控除証明書をスマートフォンで撮影して提出できることも決め手でした。控除証明書のOCR読み取りや入力時のアラートによって、従業員の方自身が間違いに気づきやすく、顧問先にも案内しやすい仕組みだと感じました。
これまで良かれと思って行っていた確認作業が、過剰なサービスになっていなかったかを考え直すきっかけにもなりました。本人の申告を尊重しながら、税理士事務所として確認すべき範囲に集中できるようになった点も、「freee人事労務」を導入した意義だと感じています。
志磨:年末調整のペーパーレス化は、私たちにとっても初めての挑戦でした。もし想定外の不具合が起きて、全員分を紙に戻すことになったとしたら…そのリスクを考えたとき、まず一部から試す方が現実的だと判断しました。
そこで、まずは「最低でも所員1人につき顧問先1社は移行してみましょう」という形にしました。事務所として全員で年末調整業務の効率化に挑戦するという意味で、現実的な目標をまずは設定する。このハードルの下げ方が良かったと思います。
実際に1社だけ試した所員もいれば、「それなら5社やってみます」と導入先を広げた所員もいました。私自身はfreeeを利用している顧問先が多かったため、自分の担当先の8〜9割ほどで「freee人事労務」の利用を進めました。
志磨:これは絶対に成功させたかったので、まず体制をしっかり組むことから始めました。 5〜6人程度のプロジェクトチームを作り、所内向けの説明、顧問先への案内、アカウント準備など、担当を分けて進めました。2週間に1回ほどのミーティングで進捗を確認し、誰が何をいつまでに進めるかをスケジュール表で管理しました。
代表との役割分担も重要でした。実務や工程管理は私が担い、所員が言いづらい部分や、強く方針を伝える必要がある場面では代表に出てもらう。そうした二段構えにしたことで、現場任せにしすぎずに進められたと思います。
志磨:私の体感では、紙で行っていた頃と比べると、年末調整そのものの業務量は半分くらいになっています。導入後、最初のセットアップが済んでからは、作業がかなり早くなりました。
紙の場合、従業員による証明書の提出後、細かな確認事項が多くありました。たとえば、住所に抜けはないか、郵便番号は入っているか、生年月日は元号ではなく西暦で記載されているかなど。「freee人事労務」では、そういった情報が整った状態で事務所側の確認に進むので、作業時間が短縮されました。
また、その分、より時間をかけるべき控除証明書の内容が合っているかのダブルチェックに使える時間が増えました。しかも、顧問先の従業員に証明書の写真を自分でアップロードしてもらうので、必要な証明書が不足していて作業が進まないというケースがほとんどなくなりました。OCRでファーストチェックを行い、人がダブルチェックする体制にできたことも、安心感につながっています。
志磨:「freee人事労務」の年末調整機能が、業務効率化だけでなく、「税理士事務所としてどこまで確認すべきか」という、責任範囲を見直すきっかけにもなりました。
年末調整の書類には、家族構成や扶養、ひとり親など、デリケートな情報も含まれます。以前はそういった情報も、前年のデータと見比べて、「去年はひとり親控除がありましたが、今年はどうですか」「去年は扶養に入っていた方が外れていますが、間違いありませんか」と確認することがありました。紙の申告書では空欄や記入漏れが多かったため、そうせざるを得ない面があったのです。
しかし、「freee人事労務」の年末調整機能は、従業員の方本人がアンケート形式の質問に順番に答えていけば、必要な情報を漏れなく申告できる仕組みです。そうなると、本人が「該当しない」と回答している項目について、事務所側が毎年「去年はこうでしたが」と踏み込んで確認する必要があるのか、という議論が生まれました。
志磨:顧問先からは、「紙を印刷しなくていい」「従業員に配らなくていい」という点を、何より感謝されました。年末調整の申告書を印刷して、従業員一人ひとりに配り、回収して税理士事務所に送るという作業は、顧問先にとっても負担だったはずです。
また、源泉徴収票をWebで確認できることで、紙で印刷して給与袋に入れる作業なども不要になります。そうした点は、顧問先にとってわかりやすいメリットだと思います。
もちろん、すべての顧問先が最初から前向きだったわけではありません。特に、デジタルに不慣れな従業員の方が多い介護事業などでは、「うちには難しいかもしれない」と言われることもありました。ただ、実際に導入してみると、従業員同士で教え合いながら進められたというケースもあります。こちらが思っているほど、顧問先はデジタル化に拒否感を持っているわけではないと感じました。

志磨:今年は、「freee人事労務」の利用を、事務所全体の半分くらいの顧問先にまで広げたいと考えています。これまでの経験によって、導入におけるつまずきやすい点と対策が見えてきました。また、所内でAIやDXに対する抵抗感が少しずつ下がってきているのを感じます。
年末調整のシーズンの忙しさを減らせると、その後に続く、償却資産税の準備や確定申告の準備なども前倒しで着手できます。繁閑の山をなだらかにする最初の一歩目だと考えています。
これから導入する事務所におすすめしたいのは、まずは自分たちで使ってみることです。私たちも、導入前に所内でアカウントを配り、LINEやアプリで入力できる「お試し会」のような機会を設けました。実際に触ってみると、「紙より絶対にこちらの方がいい」と感じられるはずです。どんな説明よりも、そうやってやってみせる、やってみる方が圧倒的に伝わります。
大切なのは、いきなり100%を目指さないことです。私たちがそうしたように、まずは1人1社でもいい。全体の2割でもいい。小さく始めることで、問い合わせ対応や顧問先への説明の仕方も学べます。年末調整業務の効率化は、給与・労務、確定申告など他業務のペーパーレス化につながる最初の一歩となるはずです。

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