置き去りだった個人事業主マーケットにロックオン

未来の株式会社

未来の株式会社

税理士・公認会計士 林寛之 様

事務所規模:15名
所在地:東京都千代田区
課題:業務効率化、集客
ローコスト化を武器に、低価格サービスに特化している事務所がある。提供サービスは記帳業務のみに絞り、面談などそれ以外の業務は対象外。申告などのオプションはあるが、決して手厚いサポートとは言えない。
それなのに顧客の満足度は非常に高いのである。さて、一体どんな戦略なのか?

自分に必要なサービスのみをビュッフェ形式で選べる

――今日は、御社でサービス提供されている「未来の経理部」についてお話をお伺いしたいと思います。早速ですが、その概要を教えていただけますか?

林:はい、弊社は「Hay 未来の税理士法人」と「未来の株式会社」という2つの組織に分かれており、「未来の株式会社」では経理を中心としたバックオフィスのアウトソーシングサービスを提供しています。そのサービスの1つが「未来の経理部」です。主に個人事業主やオーナー企業様を対象に、freeeを利用した記帳代行業務を完全オンラインで提供しています。

――一般的な経理代行の記帳業務のみをおこなうというイメージですか?

林:まさにそうです。もちろん、確定申告や法人申告、年末調整が必要な場合はオプションという形で追加できますし、税務全般のご相談に乗ることも可能です。その場合は「Hay 未来の税理士法人」でフォローアップしていきます。また、給与計算や支払業務、親会社への月次報告等、より広範囲なアウトソーシングを希望される場合は、「未来の管理本部」という上位サービスをご用意しています。

――必要なサービスをビュッフェ形式で選べるようになっているんですね。

林:「未来の経理部」はもっともライトなサービスですが、個人事業主や起業したての方はこれだけで間に合ってしまうことも多いんですね。ただ記帳だけでは完結しないので、「未来の経理部」を入り口として、税理士法人のほうでフォローアップをしたり、必要のあるお客様には追加提案をしていくというモデルです。

会計業界から敬遠されがちな個人事業主とスモールビジネス

――なぜ、「未来の経理部」のようなサービスを提供しようと思われたのでしょうか?

林:私は最初、個人事務所として会計事務所を立ち上げたんですが、やはり1件ずつ手厚く対応するのが難しいような小規模のお客様がいらっしゃいますよね。個人事業主の方や、法人であっても社長がお1人でされているようなケース……。税務だとどうしても1回の相談が長くなるし、とくに個人事業主は一律で12 月決算でしょう。会計事務所としては、物理的に請けることが難しい。

――個人事業主を敬遠する税理士さんは多いですよね。

林:そのとき、どうすればそういう方々にも会計事務所としてサービスを提供し、手助けができるかと考えたんです。そうすると記帳は記帳、税務は税務と分けたほうが理に適っているんですね。記帳に1件1件、個別対応をする必要がない方も多いですから、そういう方に対して、こちらが組み立てたルールで一律の対応ができるように記帳サービスを立ち上げたというのが経緯です。

――現状では、そういうお客様はどのくらいいらっしゃるんでしょうか?

林:「未来の経理部」のユーザー数は200 ほどです。そのうちの半分が個人事業主で、半分が法人。法人のお客様に関しては、利益が出始めて従業員を雇うようになったら、だいたい税理士法人のほうで顧問契約も結んでいますが、それが100 社のうち60 社ほどになります。

――個人事業主の場合はどうですか?

林:個人だと、顧問契約に至るお客様はあまりいらっしゃいません。

――となると、個人事業主はあまりいいお客様とは言えないんでしょうか?

林:いえ、じつは「未来の経理部」で一番利益が出やすいのは個人のお客様なんです。というのも、個人事業主は法人よりも業務ルーチンが固まっていないことが多いので、弊社のルールを適用しやすいんですね。それから、「申告さえできれば他のサービスはいらない」という方も非常に多く、「未来の経理部」にマッチするユーザーさんなんです。

――個人事業主の方だと、税理士さんに断られてしまうケースも多いと聞きます。

林:私も「未来の経理部」がなければ、お断りするしかなかったでしょうね。でもだからこそ、個人事業主はマーケットとして優れている。うちでは今後、個人事業主の方をメインのターゲットとしていこうと考えています。

”これまで取りこぼされてきた市場だからこそ戦略が活きてくる”

未来の株式会社 税理士・公認会計士 林寛之 様

Profile / 林 寛之 氏

2006年、中央大学商学部卒業。
あずさ監査法人、税理士法人青山パートナーズに勤務したのち、2013年に林会計事務所を創設。
2017年4月、同事務所をHay未来の税理士法人として法人化。現在は未来の株式会社代表取締役も務める。

低価格サービスでいかに利益を出すのか

――「未来の経理部」には、「経理担当」「経理課長」「経理部長」3つのプランがありますね。一番低価格のプランが「経理担当」で、月額4,980 円から。

林:はい。「経理担当」は4、6、9、12 月の四半期ごとの作業、「経理課長」は同じ四半期ごとですが、作業月を決算月などで指定できるプラン、「経理部長」は月次の記帳プランです。個人事業主やスモールビジネスの方に最初におすすめするのは「経理担当」プランですね。
「未来の経理部」サービス概要|未来の株式会社

――月額4,980 円という料金設定で、どのように利益を出されているんでしょう。その工夫を教えていただけますか?

林:4,980 円のプランというのは、完全に申告を目的とした記帳になっていて、レポートを出したり、個別相談に乗ったり、タイムリーに帳簿をつけたりということには対応していないんですね。お客様とのやり取りも、ほぼメールだけで完結します。そうやって業務を絞ったうえで、3カ月に1回、こちらで決めた月に作業をしていますので、オペレーションの効率が非常にいいんです。

――業務のスリム化が進んでいる。

林:また、従来の会計事務所だと、1人の担当者がクライアントの一連の作業をおこなうことが多いですよね。すると、担当者ごとのオリジナルルールができやすく、引き継ぎや効率化の足枷になります。弊社の場合、その作業を細分化して、資料を受領する人間、スキャンする人間、記帳入力は海外に出していますが、それを確認する人間……と分担できるようにして、簿記の知識・経験がない人でも作業ができる仕組みにしているんです。

――記帳のデータ入力は海外にアウトソーシングされているんですか?

林:はい。じつは、私の兄が手書き原稿や名簿などのデータ化を、海外リソースを活用して提供するいわゆるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の会社を経営しているんです。私自身、最初は兄の会社の一部門として「未来の経理部」の前身となるサービスを立ち上げました。そんな背景があるので、今もそのリソースを活用しています。

――なるほど。元々リソースがある。

林:ただ、外注しているのは基本データ作りの部分だけで、freeeにデータを取り込んだり、消し込んだり、お客様とメールでやり取りしたりというのは、すべて国内メンバーでやっています。理想は、税理士が必要となる業務以外は、今日来たアルバイトさんでもその場で対応できるくらいにシステム化することなんです。

――そうやって誰でも対応できるようにするということは、お客様といつ連絡をとったかとか、どんな話をしたかということもきちんと管理されている?

林:はい。基本的にはセールスフォースというクラウドCRM サービスで管理しています。資料を受領したらパソコンでクリックすると、お客様にメールが自動的に流れるというような仕組みですね。
誰でもその場で作業ができるように、マニュアルは作業ごとに細かく作成|未来の株式会社
誰でもその場で作業ができるように、マニュアルは作業ごとに細かく作成

顧客からの支持の秘訣は最小限のサービスと低価格

――ちなみに、未来の株式会社には何名のスタッフがいるんですか?

林:今は正社員が4名、在宅ワーカーが2名ですが、「未来の経理部」に携わっているのは2名だけです。

――200件のユーザー数でも、まだキャパシティには余裕がある感じですか?

林:まだまだあります。たとえユーザー数が1,000 件になっても、アルバイトや在宅ワークの方を増やすだけで対応できると思います。

――やはり業務を標準化すると、1人あたりの担当件数は相当増えそうですね。その一方で少し気になるのが、顧客によっては標準化されたルールに適さない場合もあるのでは、ということなんですが。

林:確かに、すでに独自のルールが確立していてご要望が生じるお客様や、特殊な業種で「未来の経理部」では対応しきれないというお客様はいらっしゃいます。その場合は残念ですが、お断りするしかないというのが実情です。

――別料金をとって、そうした要望に対応するということは?

林:それは考えていません。あくまでも「未来の経理部」は一律の作業、それ以外の対応については税務顧問という位置づけです。そうでないと、低料金で必要最低限のサービスを提供するという「未来の経理部」の利点が失われてしまいますし、そういうお客様は申し込みに至らなかった方の10%ほどにすぎないんですね。逆にサービスの内容に納得してお申し込みくださった方は、廃業以外でやめられる方はほとんどいません。

――いったん申し込まれたら継続率はかなり高い。そしてルールの問題で「未来の経理部」で対応できない場合、税務顧問のほうなら請け負えると。

林:もちろん、そのご要望が本当に意味のあるものなのかという判断は必要でしょうが、特殊な事案に対応するとなれば税務顧問になりますね。顧問って、完全に相談業務ですよね。ですから、「未来の経理部」から税理士法人にいくと、お客様のニーズはかなりバリエーション豊かになるんですよ。本当に帳簿を見るだけでいいというお客様もいれば、毎月の打ち合わせを希望される方、毎月レポート提出が必要な方……。

――標準化できないほうの仕事ですね。その場合は1人あたり何社ほど担当できるんでしょう?

林:売上5,000 万円〜1億円規模の会社として、3カ月に一度のレビュー、途中に決算も入ったとして、30社弱でしょうか。お客様が求めるものは本当にさまざまですし、やはりコミュニケーションにかける時間が多くなりますから。

――とはいえ、税務顧問契約のほうは「未来の経理部」とは違って、ある程度の報酬体系になっているんですよね?

林:正直なところ、「未来の経理部」を間口として税務顧問へと移行していただくのが、一番利益率が高いです。ただ、際限なく顧問契約をとれるかというと、人員の問題で請け負える数も限られてきますので……。その点、「未来の経理部」は現状の仕組みのまま拡張していけるという利点があります。

”目指すのは単純な記帳業務から一歩進んで業務改善提案が発信できるサービス”

苦手なマーケティングはfreeeを活用!

――ところで、「未来の経理部」ではfreeeをかなり活用していただいていますが、決め手となったのは何ですか?

林:実際にいくつかのクラウドソフトを比べてみたところ、freeeが一番、会計の知識のない人でも使いやすいと思ったんです。それは、経験のないスタッフでも仕事がしやすいということにもなるし、一律のルールを作りやすいということにもなります。それと、兄と一緒にBPOの会社をやっていたときは、マーケティングやSEO対策に非常に苦労したんですね。お金をかけてもダメ、外注に依頼してもダメ。そんなわけで、集客に関してはもう端からfreeeのブランド力に頼るつもりでいました。実際、弊社は5つ星認定アドバイザーということで、freee経由でのお問い合わせがかなり多かったです。

――そこは弊社でも力を注いでいきたい分野なので、お役に立てて嬉しいです。自社でのマーケティングや広告はどうされているんですか?

林:それが……現状では一切やっていないんです。じつは去年、「未来の経理部」のユーザー数を1,000に増やすという目標を立てたんですよ。そのうち7割を個人事業主にしようと見据え、フリーランスのウェブデザイナーさんなどターゲットを明確にしたうえで、フェイスブック広告を出していこうと考えていたんです。でも、経験のあるスタッフが1人もいないのと、お客様からの要望に応える形で「未来の管理本部」が始まり、マンパワーがそちらに取られることになって、頓挫しているところです。

――会計事務所が個別にマーケティングをやるのは、やはり難しいですか。

林:そういう知識やスキルがある人間でないと、なかなか難しいでしょうね。それは弊社でも今後の課題です。

――では最後に、これからの展望をお聞かせいただけますか?

林:我々の業界は今後、AIに取って代わられると言われますが、まさに私たちがやっている記帳業務がそうです。個人的には、おそらく一度アウトソースが進んだあとにシステム化されていくのではないかと考えていますが、いずれにしても今のままの形で続くということはないでしょう。ただ、そうやってAI が担うことになったとしても、「会計」という情報を持っていれば、クライアントさんに提案できることはたくさんあると思うんですね。それを私は「レコメンド機能」と呼んでいますが、たとえばアルバイトの数が多くて出入りが激しく、採用コストもかかっているという法人がいたら、まさにBPO で「アウトソーシングにしませんか」という提案ができます。ですから、まずは「未来の経理部」ユーザー数を増やし、そのうえで会計データを活かしたレコメンド機能を発信する――今後は、そういう仕組みのサービス展開を目指していきたいと考えています。

未来の経理部 体験記

実際に個人事業主のF村さんが「未来の経理部」サービスを体験。ユーザー視点でサービスの流れを解剖してみよう。
未来の経理部 体験記|未来の株式会社
「未来の経理部」からの案内メール(抜粋)
この度は、未来の経理部へお問合せ頂き、誠にありがとうございます。まずは弊社サービス「未来の経理部」について、ご紹介させて頂きます。

「未来の経理部」では、お求めの経理処理頻度に応じて、3つのプランをご用意しております。どのプランにおいても、領収書や同期していない通帳の写しなどの情報をfreeeに取り込むだけでなく、freeeの自動同期の設定や、口座の入出金との消し込みを行いますので、ユーザー様は、口座情報等がいつの間にか自動同期されるのと同じ感覚で、手入力や記帳結果と自動同期の細かい設定結果を後から適時確認頂くのみとなります。
プラン決定における「未来の経理部」と体験者のやりとり|未来の株式会社
プランを決めると、メールで申し込みページのURLが送られてくるので、そこで改めて住所や支払カード情報、事業内容や売上規模や従業員数などの事業規模を入力して完了。さて、申し込んだことをすっかり忘れたころのある日、「未来の経理部」から1通のメールが。
申込後、作業月にリマインドメールが届く|未来の株式会社
「未来の経理部」からの案内メール(抜粋)
「経理担当プラン」は今月が作業月となりますので、前月末までの記帳資料を今月20日までに到着するようなるべくお早めにご郵送頂けますと幸いです。

~体験を終えて~

私の周りのライターさんやカメラマンさんは、みんな経理のことが苦手です。得意じゃないから、いちいち頭を悩ませるし、時間もかかる。でも個人事業主だから、なんとなく専門家にお願いするのに敷居が高く感じてしまうんですよね。でもこれだけプランが明確だと、身構えずにお願いできます。あと、私が意外に嬉しかったのが「封筒」。料金後納で切手を貼らなくていいし、住所もすでに書いてある。手間を減らすために経理業務をお願いしているので、「発送の手間も削減してくれているんだな〜」と、細やかな気配りを感じました。

未来の株式会社

東京都千代田区
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「Hay未来の税理士法人」(2013年1月設立、2017年4月法人化)の併設組織として、2015年10月に創業。
経理を中心としたバックオフィスのアウトソーシングサービスを提供するほか、Hay未来の税理士法人とのワンストップサービスが好評。

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