税理士の「研修義務36時間以上」とは?目的と内容、注意点について解説
税理士に登録すると、研修の受講が必要です。登録して最初は登録時研修を受けますが、他にも毎年36時間以上研修を受講しなくてはなりません。なぜでしょうか。また、どんなものがあるのでしょうか。今回は、税理士の研修について解説します。
目次[非表示]
- 1.税理士の「研修受講義務」とは?目的を確認
- 2.研修義務規定の概要
- 2.1.36時間以上の受講義務
- 2.2.対面だけでなくオンライン受講も可能
- 2.3.一定の事由があれば免除も
- 3.研修の内容
- 3.1.研修には3つの種類がある
- 3.2.研修の科目
- 3.3.講師になれば「研修時間×3」が「その他研修」に
- 4.受講義務の免除
- 5.注意点
- 5.1.税理士向けでないものは認められない
- 5.2.免除申請はその都度必要
- 5.3.税理士の受講時間は公表される
税理士の「研修受講義務」とは?目的を確認
税理士の研修受講義務とは「一事業年度に36時間以上、研修を受けなくてはならない」というものです。税理士法と日本税理士連合会(以下「日税連」)の会則、各税理士会の会則や研修規則で規定されています。
なぜこのような義務規定が設けられたのでしょうか。背景には「税理士としての使命の達成」という課題があります。税理士法第一条には税理士の使命として次のようなことが書かれています。
この条文を達成するには、税理士に高度な識見と高い倫理観が備わっていないといけません。しかし近年、この達成が難しくなりました。経済の多様化に伴い、税法も年々複雑化かつ多様化しているからです。日常業務に追われていると、毎年の税制改正や昨今の事例の勉強ができなくなり、税理士としての使命を果たすことが難しくなります。そこで、研修受講を義務化しようという機運が高まりました。結果、平成13年度の税理士法改正により、次の努力義務規定が設けられたのです。
そして平成26年、税理士法での受講義務化に至りませんでしたが、日税連の会則・規則や税理士会の会則や規則において研修の受講義務が定められました。
研修義務規定の概要
研修の受講義務規定は、おおよそ次のような内容となっています。
36時間以上の受講義務
1事業年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)に36時間以上の研修を受講しなくてはなリません。ただし、事業年度の途中で新規登録した税理士は登録した月の翌月から月数按分した時間数となります。例えば7月に新規登録したのであれば、8月から翌年3月末までの8か月間から受講義務時間を算出します。次の通りです。
36時間÷12カ月×8カ月=24時間 ∴受講義務時間は24時間
対面だけでなくオンライン受講も可能
税理士が受講する研修の多くは対面型が中心です。ただし、近年はインターネットの普及や税理士の多忙化に合わせ、オンラインで受講できる研修も増えました。ライブ配信だけでなく「マルチメディア研修」といって、それぞれの都合のいい時間帯に受講できるオンデマンド型もあります。また、後述する「その他の研修」をDVDで受講した場合でも、申請が認められれば受講時間に含めることが可能です。
一定の事由があれば免除も
36時間以上の受講義務は、どの税理士にも等しく課されるものです。しかし病気や育児、介護などで受講できないケースもあります。このような場合、日税連の研修規則に規定する事由に該当すれば、受講義務が免除されます。
研修の内容
ここで研修の詳細について確認しましょう。
研修には3つの種類がある
研修は大きく分けて次の3つがあります。
- 連合会、各税理士会または支部などが実施した研修
- 税理士会によって事前に認定された「認定研修」
- 会員からの事後申請により税理士会が認めた「その他の研修」
1には、所属先以外の税理士会や支部が主催した研修で、事前に主催者から承諾を得たものや、日税連や税理士会の関連団体が主催する研修を含みます。
1と2は、原則として主催団体が出席者の受講記録をするため、申請は不要です。ただし後述するマルチメディア研修は自ら受講時間を記録しなくてはなりません。また、1と2に該当すれば「受講時間=研修時間」として認められます。
一方3は、民間団体の研修などを言います。これについては、受講した日の翌月15日までに所属の税理士会への申請が必要です。所属先の税理士会で内容を審査した後、初めて受講時間に算入されます。
なお、3の研修は1事業年度あたり18時間までしか受講時間に算入できません。つまり、1年に100時間受講しても、受講した時間として認められるのは18時間となるのです。
研修の科目
税理士が受けるべき研修の科目も、日税連の研修規則に定められています。次の通りです。
- 税理士法その他職業倫理に関するもの
- 租税法及び会計に関するもの
- 公益的業務に関するもの
- 情報処理に関するもの
- 法律、経済、経営その他税理士の業務の改善進歩および資質の向上に役立つと認められるもの
先ほどの「その他の研修」に該当する研修を自主的に受講し、申請するときは、受講内容が上記のいずれかに当てはまっていることが求められます。
講師になれば「研修時間×3」が「その他研修」に
税理士によっては、受講する側でなく、研修の講師となることがあります。この場合、講師を務めた研修時間の3倍が「その他の研修」として認められます。ただし「その他の研修」の場合、受講時間に含められる上限が18時間です。そのため本来、3倍の時間は切り捨てとなりますが、場合によっては「研修時間=受講時間」として算入することができます。
なお、ここで言う「研修の講師」には、学会などでの研究発表や公開討論のパネリスト等を含みます。ただし、一般納税者や経理担当者など、税理士以外の者を主な受講対象者とする研修の講師は含めません。
受講義務の免除
税理士の中には事情により研修を受講できないこともあります。そのため、税理士会では、次のいずれかの場合については、受講義務を免除することとしています。
- 負傷または疾病により療養している場合
- 震災、風水害、火災などの災害に遭った場合
- 税理士法第43条後段に規定する報酬のある公職に就いている場合
- 国会議員または地方公共団体の議会の議員である場合
- 出産、育児、介護などによる場合
ただし、上記のいずれかに当てはまっても、無条件で免除となるわけではありません。「研修受講義務免除に関する申述書」を、免除を受けようとする事業年度終了の日の3カ月以内に提出しなくてはなりません。
また、この申述書とともに、免除の対象となる事由が生じていることを証明する書類も必要です。疾病なら医師の診断書、育児中なら母子手帳の写しを提出することになります。
注意点
税理士の研修受講義務については、次のような注意点があります。
税理士向けでないものは認められない
大学や大学院での租税法の講義や、一般納税者や会社の経理担当者向けの研修は、申請しても研修として認められません。職業専門家としてのふさわしい研修精度を保つ必要があるからです。
免除申請はその都度必要
病気や育児、介護などで数年間受講できないことがあります。この場合、毎事業年度、免除の申述書の提出が必要です。1回出して永久有効ではありません。期限までに提出しないと「受講義務があるのに果たさなかった」とされてしまいます。
税理士の受講時間は公表される
税理士の研修の受講時間は現在、日税連のサイトで一般人も見ることができます。日税連のホームページ内の「税理士情報検索サイト」にアクセスし、個々の税理士の氏名などを入力して検索すれば、税理士の氏名や事務所所在地などと共に、受講実績時間や達成率も明らかになるのです。受講時間が少ないと、信用にかかわる恐れもあります。多忙な中でも受講するよう心がけたいものです。