税理士開業時の事務所は? 自宅開業、賃貸、レンタルオフィスのメリット・デメリット
税理士業務を行うためには、税理士法により「事務所」の設置が義務付けられています。事務所の設置方法には大きく分けて3つの選択肢があり、「自宅」、「事務所の賃貸」、または「事務所を新たに建てる」といった方法があります。
初めての開業では、自宅を事務所とするか、事務所を賃貸する方法が一般的です。事務所の賃貸についても、最近ではレンタルオフィスという選択肢もあるため、ここではこれら3つの方法についてメリット・デメリットを紹介していきます。
事務所タイプ |
自宅 |
賃貸オフィス |
レンタルオフィス |
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メリット |
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デメリット |
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目次[非表示]
- 1.自宅を事務所とする場合のメリット・デメリット
- 1.1.メリット1:初期費用・ランニングコストを安く抑えられる
- 1.2.メリット2:事務所賃貸と比べて、開業までの期間が短縮できる
- 1.3.デメリット1:住所などプライベートな情報を公開する必要がある
- 1.4.デメリット2:勝手な憶測で事務所を判断される可能性がある
- 1.5.自宅開業時のその他注意点
- 1.5.1.来客が想定される場合
- 1.5.2.居住している賃貸マンション等を事務所とする場合
- 1.6.自宅開業(申請者本人が建物を所有する場合)の提出書類
- 2.事務所を賃貸する場合のメリット・デメリット
- 2.1.メリット1:立地が選べ、顧客に好印象を与えられる
- 2.2.メリット2:セキュリティが確保される
- 2.3.デメリット1:初期費用、ランニング共にコストが膨らむ
- 2.4.事務所を賃貸契約した場合の提出書類
- 3.レンタルオフィスを借りる場合のメリット・デメリット
- 3.1.メリット1:立地を選べて、設備やサービスが充実している
- 3.2.メリット2:初期費用が抑えられる
- 3.3.デメリット1:セキュリティ面で不安がある
- 3.4.レンタルオフィスを契約(転貸借)した場合の提出書類
- 4.税理士が独立開業するときの事務所タイプ別のメリット・デメリットまとめ
自宅を事務所とする場合のメリット・デメリット
まずは自宅を事務所とするときのメリット・デメリットについてです。
メリット1:初期費用・ランニングコストを安く抑えられる
自宅を事務所とする場合、事務所賃貸で発生する賃料や内装費を削減できます。これが最大のメリットであり、約350万円程度のコストを抑えることが可能です。
さらに、オフィス用品も自宅に既にあるものを活用できるため、新たに買い足す必要がなく、最低限の費用で済む点もメリットです。
参考記事:「税理士が開業するときに必要な資金は?」
メリット2:事務所賃貸と比べて、開業までの期間が短縮できる
事務所を賃貸する場合、賃貸物件を探して申し込み・審査を経て、実際に賃貸契約に至るまで一定の期間を要します。さらに、内装工事を行う場合は、プランの作成から工事の完了までに最低でも2ヶ月程度かかることが予想されるため、ゆとりをもった開業スケジュールが必要です。
その点、自宅開業であれば税理士事務所としての手続きのみで開業できるため、開業までのスケジュールを短縮でき、計画的に開業を進めやすいです。
デメリット1:住所などプライベートな情報を公開する必要がある
税理士事務所を自宅で開業した場合、自宅の住所を名刺やホームページ上に掲載する必要があります。近年ではGoogleマップのストリートビューなどで、インターネット上から自宅の大きさや外観なども簡単に調べられてしまうため、プライバシー面で不安が生じることがあります。
家族と同居している場合は、事前に家族の了解を得ることが必須です。
デメリット2:勝手な憶測で事務所を判断される可能性がある
住所の公表と関連する話になりますが、自宅が事務所であることが住所から分かると、税理士を比較検討している方に、「自宅が事務所では信頼できないかもしれない」「別に事務所を借りられないほど安定していないのでは」など、勝手な憶測で判断されてしまう可能性があります。どれほど素晴らしいホームページを準備しても、このような先入観が生じることがあります。
開業時のターゲットとする顧客によっては、誤解を避けるために事務所賃貸を選択する方が良いケースもあります。
自宅開業時のその他注意点
来客が想定される場合
自宅で開業する場合、来客が想定される際には注意が必要です。
来客=自宅に招くことになるため、自宅内に応接スペースを確保したり、セキュリティ面を考慮してプライベートエリアと仕事エリアを明確に分ける配慮が必要です。そのために自宅の改装工事が必要になる可能性もあるので、その点には注意しましょう。
居住している賃貸マンション等を事務所とする場合
一戸建てではなく、居住している賃貸マンション等を事務所とする場合、建物自体が事務所利用を禁止しているケースがあるため、事前に不動産会社等に確認しておきましょう。
自宅開業(申請者本人が建物を所有する場合)の提出書類
自宅開業の場合、税理士登録時に事務所の設置を確認するために必要な書類は以下です。
- (建物の)登記事項証明書
- 建物が居住用である場合、建物の管理責任者等からの税理士事務所設置同意書
- 税理士事務所設置に関する誓約書(管理組合等から同意を得られない場合)
- 建物の外観および本拠となる場所を撮影した写真
建物の所有者が共有であったり、親が所有である場合は提出する書類が変わります。
詳細については以下を参照ください。
参考:日本税理士連合会:税理士登録の手引(PDF 19/48)15ページ目
(https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/cpta/system/entry/howto/entrymanualR6.pdf)
事務所を賃貸する場合のメリット・デメリット
次にオフィス用として賃貸されている物件を借りる方法です。いわゆる賃貸オフィスの場合のメリットとデメリットについて説明します。
メリット1:立地が選べ、顧客に好印象を与えられる
自宅開業と異なり、事務所を借りる最大のメリットは、どこを拠点とするかを自由に選べることです。開業を前提とした自宅選びをしているケースは少ないため、自宅開業の場合には立地の融通が効きません。
その点、賃貸オフィスであれば、拠点としたいエリアを中心に事務所を設定できるため、既存の顧問先が近い場所や、将来的に顧問先になり得る顧客が多い都市部に近い場所を選ぶことが可能です。
また、住宅地とは異なり、オフィスエリアに事務所を構えることで、ホームページにオフィスの外観や内観の写真を掲載し、税理士としての信頼感を高めることができます。
メリット2:セキュリティが確保される
自宅開業と比べて、賃貸オフィスであればプライベート空間とは完全に分離され、オフィス内に入室できる人も物理的に限定されるため、セキュリティが確保されます。
機密性が高い情報を扱う税理士にとって、セキュリティ面が確保された事務所であることは、顧客からの信頼につながる大きなメリットといえます。
デメリット1:初期費用、ランニング共にコストが膨らむ
賃貸オフィスの場合、当然ながら初期費用やランニングコストがかさみます。敷金や保証金、仲介手数料といった初期費用に加え、月額賃料の支払いが必要です。立地条件や広さが良いほど金額も上がるため、開業資金が多く必要になります。
さらに、賃貸オフィスでは、オフィス備品(プリンタ・スキャナ等の周辺機器、机、椅子、応接セットなど)も一通り揃えていく必要があります。
【費用の目安:都内10坪程度を想定】
- 初期費用(敷金・礼金・保証金):100万円~
- 月額賃料:15万円~
加えて、賃貸オフィスの種類や状態によっては内装費用(最低100万円〜)も必要となってきます。
税理士開業時の初期費用については「税理士が開業するときに必要な資金は?」もご覧ください。
事務所を賃貸契約した場合の提出書類
事務所を賃貸契約した場合、税理士登録時に事務所の設置を確認するために必要な書類は以下です。
- (建物の)登記事項証明書(建物の所有者が申請者の親族の場合)
- 賃貸借契約書(コピー)
- 税理士事務所設置同意書(賃貸借契約に使用目的として「事務所」と明記されている場合は不要)
- 税理士事務所設置に関する誓約書(所有者もしくは管理組合等から同意を得られない場合)
- 建物の外観および本拠となる場所を撮影した写真
詳細については以下を参照ください。
参考:日本税理士連合会:税理士登録の手引(PDF 20/48)16ページ目
(https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/cpta/system/entry/howto/entrymanualR6.pdf)
レンタルオフィスを借りる場合のメリット・デメリット
事務所を借りる方法として賃貸オフィスを契約するのではなく、レンタルオフィスを利用する方法もあります。ここではレンタルオフィスのメリット・デメリットについて説明します。
メリット1:立地を選べて、設備やサービスが充実している
レンタルオフィスも賃貸オフィスと同様に、拠点を自由に選べる点がメリットです。近年では、レンタルオフィスが都市部の主要な駅周辺にほぼ必ずといっていいほど存在します。人気のエリアでは満室になっていることも多いため、空きがある場合には早めの決断が求められることがあります。
また、レンタルオフィスでは共用スペースに会議室が併設されていることが多く、来客対応も可能です。さらに、受付や複合機、シュレッダー、コーヒーマシン、インターネットなどが月額利用料に含まれていることが多く、1人での開業時には便利なサービスが多く提供されています。
オプションとして秘書代行や電話代行などのサービスが提供されている場合もあり、専任スタッフを雇わずに少額でバックオフィス業務を委託できる点も魅力です。
メリット2:初期費用が抑えられる
自宅開業ほど費用を抑えられるわけではありませんが、通常の賃貸契約と異なり、敷金・礼金・保証金が不要なケースが多いため、初期費用を大幅に抑えることができます。
ランニングコストとして、レンタルオフィスの個室利用の相場は立地や付帯サービスによって異なりますが、都内主要エリアでは月10万円〜を見ておいた方が良いでしょう。
デメリット1:セキュリティ面で不安がある
一方で、賃貸オフィスと比べるとセキュリティ面に不安がある場合もあります。レンタルオフィスは施設の特性上、不特定多数の人が出入りするため、盗難リスクが存在し、個室や会議室の防音性能が低い場合には、音漏れによる情報漏洩の恐れもあります。
また、複合機によってはスキャンした内容が一定期間複合機内に保存されることがあるため、レンタルオフィスを利用する際には、セキュリティ面について見学時に細かく確認するようにしましょう。
レンタルオフィスを契約(転貸借)した場合の提出書類
レンタルオフィスを契約して事務所とする場合、税理士登録時に事務所の設置を確認するために必要な書類は以下です。
- 所有者と賃借人との賃貸借契約書(コピー)
- 賃借人と申請者との転貸借契約書(コピー)
- 税理士事務所設置同意書(所有者と賃借人の両名からのもの)
- 税理士事務所設置に関する誓約書(所有者もしくは管理組合等から同意を得られない場合)
- 建物の外観および本拠となる場所を撮影した写真
転貸借時の提出書類の詳細については以下を参照ください。
参考:日本税理士連合会:税理士登録の手引(PDF 20/48)16ページ目
(https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/cpta/system/entry/howto/entrymanualR6.pdf)
レンタルオフィスの契約形態によっては、必要な書類が異なる場合もあるため、必ず事前に所属する税理士会に確認するようにしましょう。
参考:日本税理士連合会:全国税理士会、関連団体ページ
(https://www.nichizeiren.or.jp/nichizeiren/location/)
税理士が独立開業するときの事務所タイプ別のメリット・デメリットまとめ
税理士法で義務付けられている「事務所」の設置について、コストを抑えるなら自宅開業かレンタルオフィスの利用がおすすめです。顧問先への訪問が主であれば、開業初期には自宅を事務所とするのが有効でしょう。
顧問先への訪問が多い場合でも、自宅からの距離がある場合や来客が想定される場合には、レンタルオフィスを利用することで開業初期の事務所として大きなメリットがありますが、セキュリティ面での配慮が必要です。
賃貸オフィスを事務所とするのは、セキュリティ面が確保されるため理想的ですが、コストに余裕がある場合に検討する選択肢となるでしょう。
いずれにせよ、これから税理士として独立開業する上で、どのような顧客をメインターゲットとし、どのような税理士事務所を目指していきたいのか、具体的なイメージを持ち、数年先を見据えた事務所選びが重要です。
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