
税理士の報酬自動支払制度とは?仕組みやメリットを解説
税理士として独立開業後、順調に顧問先が増加するとともに報酬の管理業務はだんだんと複雑化します。気がつけば、これらに多くのリソースを割いてしまっていることも珍しくありません。こうした課題を解決するサービスの一つが「報酬自動支払制度」です。
本記事では、この制度の基本的な仕組みや導入メリット、2つの運用方式(振替管理型・売上管理型)の違いについて詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.税理士の報酬自動支払制度とは
- 2.報酬自動支払制度のメリット
- 2.1.請求作業の軽減
- 2.2.入金確認も省力化
- 2.3.回収漏れの防止
- 2.4.顧問先にもメリットがある
- 3.報酬自動支払制度の2つの方式
- 3.1.振替管理型
- 3.2.売上管理型
- 3.3.振替管理型と売上管理型の料金比較
- 4.業務効率化のために報酬自動支払制度の利用を検討しよう
税理士の報酬自動支払制度とは
報酬自動支払制度は「税理士協同組合」と「日税ビジネスサービス」によって提供されている税理士専用の口座振替サービスです。毎月5日または28日に当月の請求分の税理士報酬が、対象となる顧問先の口座からいったん税理士協同組合の口座へ振り替えられ、その5営業日後にまとめて税理士の口座へ振込まれるというのがサービスの基本的な流れになります。
このサービスを利用するには、顧問先に税理士協同組合への口座振替の申し込みをしてもらい、あとは税理士側で、専用システムに顧問先の情報(請求額など)を登録するなどの作業が必要になります。
こうした制度の概要だけでは、この「報酬自動支払制度」をわざわざ導入するメリットが少し見えづらいかもしれません。しかし、この制度は単なる口座振替にとどまらず報酬に関する業務全体を効率化するさまざまな機能を備えており、税理士事務所によっては、今抱える管理業務の負担を大きく軽減できる可能性があります。
報酬自動支払制度のメリット
報酬自動支払制度を導入することによるメリットを解説します。
請求作業の軽減
報酬自動支払制度では、登録した顧問先に対して口座振替前に請求書メールを自動で送信できるようになります。顧問先によっては送信しないことも可能ですし、有料オプションとしてハガキの請求書を送付することも選べます。
顧問先への請求書は適格請求書の要件を満たす様式で発行され、源泉所得税や消費税も自動で計算されます。毎月の顧問料だけでなく、年に一度の決算申告料、事業承継・相続など不定期に発生する報酬請求にも対応しています。
この機能により、毎月の請求業務にかかる事務負担を軽減することが可能となります。
入金確認も省力化
報酬を請求した後は、正しく入金されたかどうかを確認する作業も必要です。しかし顧問先ごとの入金日は通常バラバラで、入金確認作業が負担になることも多いです。
報酬自動支払制度では、振替日の5営業日後にまとめて税理士の口座に入金されるため、頻繁にチェックする必要はありません。また口座振替の結果は、振替日の2営業日後の翌日から専用Webシステムに一覧で表示されます。インターネット環境さえあればIDとパスワードの入力によってどこからでも確認でき、振替ができなかった顧問先があれば色付きで表示されるため、スピーディな連絡が可能となります。
回収漏れの防止
万が一口座振替ができなかった顧問先があっても、報酬自動支払制度では「再振替」の設定を利用し、次月の請求分とあわせて未収分を請求することができます。顧問先ごとに再振替の有無を選択できるため、顧問先の状況に合わせて利用可能です。この機能により未収金の管理もシステム上で継続的に行えるため、回収漏れを防止することができます。
なお、後述する「売上管理型」では、未収金の再振替において「一括請求」だけでなく「請求細目ごと」にも設定できるため、さらに細かい対応が可能になります。
顧問先にもメリットがある
報酬自動支払制度の導入は顧問先にもメリットがあります。現在、税理士報酬の支払いを銀行振込や現金手渡しで行っている顧問先があれば、口座振替の導入により事務負担の軽減が期待できます。
銀行振込の場合は、銀行に出向く手間がなくなるだけでなく、振込金額の誤りや振込そのものを忘れてしまうといった人的ミスも防止できます。現金払いの場合でも、毎回ちょうどの金額を準備する必要がなくなり、現金の用意を忘れる心配もありません。
報酬自動支払制度の2つの方式
報酬自動支払制度には、「振替管理型」と「売上管理型」という2つの方式が用意されており、導入目的や予算に合わせて選ぶことができます。
振替管理型
振替管理型は、口座振替に関する基本機能に特化したシンプルな方式です。基本料金はかからず、1件あたり335円(税抜)の手数料で利用できます。顧問先の件数が少ないうちは、基本料金のかかる売上管理型に比べてコストを抑えられるため、導入のハードルが低いことが特長です。
口座振替に関する機能は売上管理型と同等で、請求メールの送信、入金確認、再振替の設定など、これまで紹介した各種機能を利用できます。件数の少ない事務所や、一部の顧問先のみで利用したい場合に最適です。
【振替管理型を選択すべきケース】
・請求や入金管理の事務負担を軽減したい場合
・顧問先が少ない、一部の顧問先のみで利用したい場合
・なるべく低コストで利用を始めたい場合
売上管理型
売上管理型は、口座振替の機能に加えて、口座振替を利用していない顧問先を含めた全体の売上管理にも対応できる方式になります。
振替管理型の場合は、口座振替を利用している顧問先のみが管理対象でした。これに対し、売上管理型では、それ以外の顧問先もシステムに登録することが可能です。入金処理をすることで未収金の管理などもできるため、全体の売上や回収状況を一元管理できるようになります。
さらに、全体の売上情報を集計してCSV形式で出力することも可能なため、他の管理ツールとの連携もしやすく、事務所のシステム構築に合わせて役立てられることも特長です。また、振替ができなかった際の未収金の再請求(再振替)についても、売上管理型では「請求細目ごと」に設定することができます。
これにより実質的な分割請求が可能となり、顧問先の事情に合わせた柔軟な対応がしやすくなります。
【売上管理型を選択すべきケース】
・より多くの顧問先で利用したい場合
・口座振替を利用していない顧問先の請求にも役立てたい場合
・事務所全体の売上管理に役立てたい場合
振替管理型と売上管理型の料金比較
振替管理型と売上管理型の料金体系は、以下のとおりです。
利用タイプ |
振替管理型 |
売上管理型 |
|
|
両方 |
どちらか一方 |
両方 |
月額基本料金 |
なし |
1,800円 |
2,100円 |
1件あたりの月額料金 |
335円(税別) |
240円(税別) |
参考:報酬自動支払制度:報酬自動支払制度とは
https://www.houshu.co.jp/about/
売上管理型では、振替日を「5日または28日のいずれか一方のみ」利用する場合と、「両方を利用する場合」とで月額基本料金が異なります。一方、振替管理型には基本料金がかからないため、1件あたりの手数料は割高であっても、顧問先の件数が少ない場合にはトータルコストを抑えやすいという特徴があります。
この料金体系をもとにシミュレーション(※1)すると、売上管理型のほうが割安となる分岐点は次のとおりです。
・振替日を「5日または28日のいずれか一方」のみ利用する場合…19件以上
・振替日を「5日と28日の両方」利用する場合…23件以上
(※1)日税ビジネスサービス|利用料金シミュレーション
https://www.houshu.co.jp/about/simulation/
業務効率化のために報酬自動支払制度の利用を検討しよう
報酬自動支払制度は、請求・入金確認・未収金管理といった手間のかかる業務を効率化し、安定した報酬回収を実現する制度です。報酬の入金管理が負担となっている場合には利用を検討するとよいでしょう。
報酬自動支払制度には「振替管理型」と「売上管理型」の2つの方式があります。導入の際には事務所の規模や運用方針に合わせて方式を選択しましょう。
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