税理士試験の受験資格とは?令和5年度から緩和された条件も確認
税理士試験を受けるには、受験資格を満たすことが必要です。この受験資格、最近の受験者数の減少を受け、令和4年度税制改正で緩和されました。令和5年度から適用されますが、どう受験しやすくなったのでしょうか。今回は、税理士試験の受験資格について、変更点も含めて解説します。
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令和4年度の税制改正による受験資格の緩和
最初に押さえておきたいのが、税制改正による税理士試験の受験資格の緩和です。税理士試験の受験資格は、税理士法で規定されていますが、令和4年度税制改正により2点、改正されました。いずれも令和5年度の税理士試験から適用されます。
背景は「受験者数の減少」「多様な人材の確保」
なぜ税理士試験の受験資格に改正が入ったのでしょうか。背景には、税理士試験の受験者数の減少と多様な人材の確保の必要性があります。
税理士試験の受験者数は年々減少しています。かつては4万人超だった受験者数は、近年3万人未満に落ち込みました。
背景には、少子高齢化の他、会計への関心の低下、「AI(人工知能)の進展で税理士業務は不要になる」といった風潮があると見られます。
受験資格そのものも敷居の高さを感じさせていました。特に引っかかるのが「学識による受験資格」です。どの科目にせよ、早くても大学3年生にならないと受験できません。大学3年生と言えば、就職活動で動き始める頃です。落ち着いて勉強などできません。
また、大学3年生で受験しようと思っても、挑戦できるのは法学部か経済学部の学生に限られます。法律学か経済学に属する科目の単位を取っていないと受験資格として認められないからです。文学部や理工学部の学生や卒業生だと、まずは日商簿記1級の取得をしなくてはなりません。
税理士試験の受験生の減少は、税理士そのものの減少につながります。放置すれば、申告納税制度の根幹を支える将来世代の税理士の枯渇になりかねません。
また、近年は、税務申告や税務相談だけでなく、講演や執筆などでも税理士が活躍するようになりました。海外で事業展開する税理士も少なくありません。今や税理士自身は、専門知識だけでなく幅広い教養も求められるようになっています。
こういったことから、税制改正で受験資格を見直すこととなりました。
緩和された条件①簿記論・財務諸表論の受験資格の撤廃
1つ目は簿記論・財務諸表論の受験資格の撤廃です。令和4年度まで、この2科目を受験するには「法律学か経済学に属する科目を修めている」「会計事務所などで会計に関する事務を2年以上経験した」といった条件を満たす必要がありました。そのため、どんなに早くても大学3年生でなければ受験できなかったのです。
今回の改正で会計学に属する科目を受験するための条件がなくなりました。結果、大学1・2年生からでも高校生からでも受験できます。
緩和された条件②税法科目の受験資格「学識」の内容が拡充
2つ目は税法科目の受験の要件である「学識による受験資格」の緩和です。改正前、この受験資格の条件の一つは「法律学か経済学に属する科目を修めていること」となっていました。しかし改正により「社会科学に属する科目」と拡充されました。
この社会科学に属する科目には、改正前の法律学・経済学に属する科目の他、社会学や政治学、心理学なども含まれます。イメージにすると次のような形です。
どの学部で履修したかは問いません。また、専門科目である必要はなく、教養科目や共通科目に位置付けられるものであってもかまわないとされています。
以上の改正をまとめて図にすると、次のようになります。
つまり、税理士試験の受験資格は令和5年度分から「税法に属する科目を受験するための資格」を意味するわけです。そして、受験資格には「学識」「資格」「職歴」「認定」の4つがあります。
税理士試験の受験資格①学識
学識による受験資格の内容と証明書類は次の通りです。なお、証明書類については、いずれも写しでよいとされています。
参照:「受験資格について|国税庁」を加工して作成
税理士試験の受験資格②資格
資格による受験資格の内容と証明書類は次の通りです。
参照:「受験資格について|国税庁」を加工して作成
税理士試験の受験資格③職歴
参照:「受験資格について|国税庁」を加工して作成
税理士試験の受験資格④認定
認定による受験資格とは、国税審議会が受験希望者からの申請に基づき、個別に認定した受験資格のことです。
過去に認定された事例としては「海外の大学で社会科学に属する科目を修めた」「商工会議所など会計事務所や金融機関以外の場所で会計に関する事務に従事した」などがありました。
この認定を受けるなら、次の書類を受験申込期間の前に、国税審議会に提出しなくてはなりません。
- 税理士試験受験資格認定申請書
- 学識、職歴、事務又は業務の内容を証明する書面
- 郵便番号、住所及び氏名を明記し、所要額の切手(特定記録であれば280円、簡易書留であれば440円、書留であれば555円の切手)を貼ったA4判大の返信用封筒
税理士試験の受験資格をタイプ別に判断
どういう人に、税理士試験の受験資格があるのでしょうか。また、あるとしたらどの科目を受験できるのでしょうか。ここでタイプ別に診断してみましょう。
高校生
高校生でも、簿記論と財務諸表論は受験できます。令和5年度の税理士試験から、会計学に属する科目の受験資格がなくなったからです。ただし、合格するかどうかは別です。最低限、日商簿記や全経で勉強して複式簿記や決算の基本を押さえておいた方がいいでしょう。そうでないと、専門学校で勉強しても授業を理解できない可能性があります。
大学生
大学生は、どの年次かで受験できる科目が分かれます。
大学1・2年
簿記論と財務諸表論は受験できます。先ほども書きましたが、会計学に属する科目の受験資格がなくなったからです。ただし、やはり簿記の基本は押さえておく必要があります。
なお、社会科学系の科目を履修しているのなら、早めに挑戦して会計科目2つを取っておくといいかもしれません。2年までに会計科目をとっておけば、3年以降に税法科目にチャレンジできるからです。
大学3・4年
簿記論・財務諸表論は受験できます。税法科目は、次の条件を満たしていれば受験できます。
- 社会科学に属する科目を1つは単位を取っていること
- 1の科目を含め、62単位以上取得済みであること
要は「ちゃんと授業を受けて定期試験で一定以上の成績を修めて単位を取得していないと税法科目は受験できない」ということです。なお、受験を申し込む際、成績証明書が必要です。この証明書は、成績だけでなく大学3年次以上であることも書かれているものが求められます。
社会人
大学や短大、高等専門学校などを卒業した社会人であれば、会計科目は受験できます。税法科目は、在学時に社会科学に属する科目を1つ以上修めていれば受験可能です。
社会人も大学生と同様、成績証明書の提出が必要です。成績証明書に卒業年月の記載がなければ、別途、卒業証明書の提出も行うことになります。
まとめ
税制改正により税理士試験の受験資格は、大幅に緩和されました。「AIで税理士はいらなくなる」などと言われますが、実際には、税務申告や決算、記帳代行に限らず、多種多様な業務を行うことが多いです。税理士の需要が下がるどころか、むしろ上がっていくのではないかと見られます。
そして、若ければ若いほど、税理士試験に合格する可能性は高くなります。少しでも関心があるなら、まずは会計科目から挑戦してみてはいかがでしょうか。