わが社の税理士 売上1/3に陥った人材会社を救った税理士の言葉とは
企業の経営は山あり谷あり。米国のシリコンバレーに端を発した「スタートアップ冬の時代」の煽りを受け、月ベースの売上が1/3に減った会社があります。スタートアップとベンチャー企業を専門とする人材会社の株式会社アマテラスです。
ピンチに陥った同社の藤岡清高さん(代表取締役CEO)を救ったのは、顧問税理士である加瀬洋さん(アカウンティングフォース税理士法人 代表)のひと言。その言葉はどんなものだったのか、藤岡さんに話を伺いました。
スタートアップとベンチャー企業に特化した人材会社
――貴社の規模や成り立ちについて教えてください。
藤岡清高さん(以下、藤岡):従業員数は私を含め18名です。2011年の創業以来、スタートアップとベンチャー企業に特化した採用支援サービスを提供してきました。
私は元々、ベンチャーキャピタルの出身で、スタートアップやベンチャー企業の経営者と深く関わる立場にありました。その中で、経営者は採用について悩みを持っていることに気づいたのです。
スタートアップやベンチャー企業の経営者は100%と言っていいほど、採用に関するペインを抱えている。このことを確信した私は、スタートアップとベンチャー企業に特化した採用支援サポートを行う会社を起こしました。それがアマテラスです。
今は人材会社がたくさんありますが、シード・アーリーステージのスタートアップとベンチャー企業を専門とするのは弊社だけです。スタートアップやベンチャー企業だからこその悩みに寄り添えるのは、弊社の強みの1つです。
――顧問税理士との出会いについて教えてください。
藤岡:顧問税理士は、アカウンティングフォース税理士法人の加瀬洋さんです。加瀬さんは、実はベンチャーキャピタルに勤務していた頃の同僚で、はじめから信頼関係が成り立ったうえで顧問契約を交わしました。
ベンチャーキャピタルで共に汗を流した後、私は人材会社の経営者として、加瀬さんは税理士法人の代表として、二人三脚で歩んでいくことになったのです。本当に縁とは不思議なものだと思います。
胸襟を開いて何でも話し合える関係性
――加瀬さんと契約する際、何を重視しましたか?
藤岡:経営の相談ができることです。アマテラスを創業した時は、知り合いからの紹介で別の税理士さんと契約しました。その間も加瀬さんとは友人として付き合ってきましたが、彼は会計士や税理士としてのスキルがあるだけでなく、コンサルティングや経営者としての素養もあるので、色々な話ができます。
会計の実務だけでなく経営全般の相談ができる点、そして加瀬さんという人物が信用できる点を鑑みて契約させていただくことにしました。
――加瀬さんからどんなサービスを受けていますか?
藤岡:会計の実務だけでなく、財務や経営の相談に乗っていただくことがあります。恥ずかしながら、経営判断に迷うことが訪れたり、中核の社員が辞めたり、ピンチに見舞われることがあります。そういう時、包み隠さず何でも相談できるのが加瀬さんです。例えば今期の計画について話す際、単に数字を話すだけでなく、「実はこういう状況だからこういう計画になるかもしれない」とか、胸襟を開いて話すことができます。
――加瀬さんからのアドバイスで印象に残っているものはありますか?
藤岡:私は一度、自信を失って「自分は経営者として失格なんじゃないか」と思ったことがあります。その時、「多くの経営者を見てきたが、その中でも藤岡さんは今後もお付き合いしていきたいと思っている貴重な存在で、立派な経営者だと思っている。アマテラスのような会社を創ったことは誇りに思ってほしい。だから大丈夫ですよ」と加瀬さんに背中を押していただきました。
数字では表せない私の人間性や、経営者としての至らなさもわかったうえで、力強い言葉をかけてくださったんです。こういう機微に関わることは、普通は税理士さんには相談しないと思います。特に会計の実務を淡々とこなすタイプの税理士さんには、相談しても無駄ではないかと、話すことを躊躇してしまいます。
――自信を失ったのはなぜですか?
藤岡:数字が落ち込み、経営者として何をしていいかわからなくなってしまったことがあります。減収の理由を分析をして打ち手を考えるというアクションを取っても、何をやっても駄目で、自分の存在価値を見失ったのです。
今思うと、アマテラスのビジネスモデルがおかしくなったからではなく、スタートアップ業界の環境が悪化したことが主な原因だったとわかります。2023年、シリコンバレーバンクが破綻したりして「スタートアップ冬の時代」と言われ、世界的に問題になりました。
日本も煽りを受け、スタートアップの人材投資が減り、採用を控える会社が多くなりました。アマテラスの売上は、最も厳しかったときは月ベースで通常時の1/3にまで下落。こうした大きな流れの中で、私に取れる打ち手の選択肢はそもそも多くなかった、ということが今になってみればわかります。
ただ、当時の状況下で、私に対して「経営者として真剣にやっているのか」と指摘する社員が出てきました。社員も次々と退職しました。経営者として真剣にやっていないわけはありません。私としてはボロボロになりながらも出来ることはやったつもりでしたが、数字は上がらず、なかなか理解もされませんでした。「経営者は孤独」というのは本当だな、としみじみと感じました。
心労がたたって睡眠時間が減り、正直、逃げたい気持ちにもなりかけました。そんな中、加瀬さんにいただいた「大丈夫ですよ」という励ましは、私を奮い立たせる原動力となりました。今年に入り、スタートアップが採用を増やす局面を迎え、アマテラスもV字回復に成功します。
「良い税理士」の条件は経営者の気持ちがわかる人
――藤岡さんが思う良い税理士の条件を教えてください。
藤岡:人として信頼できることです。依頼主と顧問税理士という関係を超え、対等の関係で話ができることは非常に重要だと思います。また経営者として困ったことがあれば、いつでも経営者の目線で相談に乗ってもらえることも大切です。
さらに私の立場からすると、経営者の気持ちがわかる人だとありがたいですね。アマテラスに限らずどこの中小企業も同じだと思いますが、規模が小さいだけに経営的に不安定なところがあります。先ほど挙げた例のように、景気ひとつで会社の業績がアップダウンしたりしますから。
――加瀬さんが信頼に足る人物だと思った理由は他にもありますか?
藤岡:加瀬さんが代表を務めるアカウンティングフォース税理士法人は、アマテラスのサービスを使って人材を採用することがあります。加瀬さんは私のことをビジネスパートナーだと考えている証拠ではないかと密かに思っています。他にも、お客さんをアマテラスに紹介してくれることも少なくありません。
弊社のことをよく理解してくれているので、加瀬さんのクライアントのスタートアップに人材採用のニーズがあれば、弊社のことを紹介していただけます。このあたりもアマテラスに信頼を寄せてくれていることの表れだと思っています。
――藤岡さんがアマテラスを通して実現したいことを教えてください。
藤岡:起業家の採用の悩みを解決したいという1点に尽きます。社会や日本という国を変えていこうとする起業家を私はリスペクトしています。一方で現実を見ると、ほとんどの会社が創業フェーズで潰れています。
10年続く会社はほんの数%しかありません。次のSonyや次のHondaが育つ環境を作る手伝いをしたい。それが偽らざる私の本音です。
――最後に将来の夢を教えてください。
藤岡:将来の夢は、「次の100年を照らす、100社を創出すること」です。SonyもHondaもgoogleもFacebookも、元々は小規模なスタートアップでした。
こうした企業が採用に関する悩みから解き放たれ、優秀な人材を獲得して大きく成長していく。アマテラスはその成長を支える企業であり続けたいと考えています。そのためには、親身になって私の背中を押してくれる加瀬先生の存在が不可欠です。